今回は、感動を通り越して「衝撃」を受けた舞台についてのコラムです。
10月14日(火)のソワレに世田谷シアタートラムにて
『炎 アンサンディ』という舞台を観劇しました。
レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワド氏原作、翻訳:藤井慎太郎氏、
上村聡史氏演出、麻実れいさん主演の作品です。
題名の「アンサンディ(incendies)」とはフランス語で、
火災や火事といった災いを意味するニュアンスが込められています。
レバノン内戦を生き抜き、カナダへ亡命した母親のルーツを双子の姉弟が
解き明かしていく物語です。
舞台は“現代のモントリオール ”、“過去のモントリオール”、“現在の中東”、
“過去の中東”と、四つの時間軸が交錯し、展開されていきました。
詳しいストーリーは以下の通りです。
シアタートラムにて撮影。筆者も写ってしまっております。 幽霊ではございません。悪しからず(笑) (HP→http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/09/post_370.html) |
【ストーリー 】
「現代のモントリオール。公証人エルミル・ルベルは、生前に親交のあった中東系カナダ人女性ナワルの遺言と二通の手紙を彼女の実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンに託す。その二通の手紙にはそれぞれ宛名が書かれており、姉には死んだと聞かされていた父を、弟には存在すら知らされていなかった兄を探し出して、その手紙を渡して欲しいという衝撃的な遺言が告げられていた。そして、その目標が達成された時、更にもう一通の手紙が双子に渡されるというものであった。
ある日を境に突然話すことを止め、実の子にも心を閉ざして生きてきた母への複雑な思いから、双子は反抗的な態度をとる。だが、公証人のルベルにも促され、母親のルーツを訪ねてみたいという思いが徐々に芽生え始めた双子は、母親の祖国・中東へ旅立つ決心をする。初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命に対峙することになる。(※1)」
母親の沈黙、遺言書の意図、父と兄の姿、そうした全ての謎が解き明かされた瞬間、
今まで感じた事のない大きな衝撃が走りました。
演出のクオリティの高さ、役者の方々の迫真の演技に対する感動を通り越して、
絶望、悲しみ、怒り、やるせなさ、そういった様々な感情が一気に押し寄せ、
私自身が主人公と同じく沈黙してしまいたくなるような感覚に陥ってしまったのです。
(※無論、演出をはじめ役者の方々が作品の本質を体現していらしたので、
そのように感じたのです。)
話のネタバレにもなってしまいますが、舞台のちらしの裏面や多くの新聞評にも
書かれています通り、この戯曲はギリシャ悲劇の『オイディプス王』(※2)を
彷彿させる作品でもあります。
ですが、ギリシャ神話である『オイディプス王』は自分とはかけ離れた物語として
感じられるのに対し、この『炎』は現代、中東の内乱が背景となっていること、
そして原作者であるムワワド氏自身がベイルートで内戦を経験し、
カナダへ亡命を果たしていることも相まり、
私たちの身近で起こりうる切実な問題として迫ってきたのです。
国の混乱が引き起こした家族の悲劇。
正直タブーとも言える事実に直面した際、もはや沈黙するしか道はないように
感じてしまいます。
ですが、この作品の深みは絶望を伴いながらも事実を受け止め、
愛をもって生きていくことを指し示している点にありました。
シアタートラムの入り口 (撮影:aki) |
とはいっても、終演後は感情の整理がつきませんでした。
ブログを書いている今でも、複雑な思いが先走ってしまいます。
ですが、ただ一つ言えるのは、この作品に出会えて良かったということです。
私自身は無力であり、問題に対して具体的に何かできるわけではありませんが、
僭越ながら「観劇を通して感情が大きく揺らいだ」という事実が
意味のあることだと思うのです。
他者の問題をリアリティをもって相手に感じさせること、
それが演劇の持つ力ないし役割であることを今回の観劇を通して
改めて気づかされました。
そして、この話には個人的に続きがあります。(あくまで個人的に☆)
『炎』を観劇した翌日、宝塚歌劇雪組公演『伯爵令嬢』を見に行きました。
正直『炎』の観劇直後に、真逆ともいえるハッピーエンドの作品をみてしまったら
宝塚に何か抵抗を感じてしまうのではないかと心配してしまいましたが、
それは杞憂に終わりました。
真逆の作風の舞台を立て続けに観劇したことで、何を感じたのか?
次回の観劇コラムで綴らせて頂きたいと思います☆☆
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
感謝をこめて☆☆
Aki ishizaka
(※1)
ストーリーの記述は、『炎』のちらしの裏面および当日配布された解説文を参照致しました。
(※2)
『オイディプス王』
ギリシャ神話の登場人物。宿命により、知らずして父王を殺害し、生母を妻としたが、
事の真相を知り、自ら両目をえぐり取り、諸国を放浪して死去。
ギリシャ三大悲劇詩人の一人、ソポクレスによって戯曲化された。
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